今日もまた、傍聴席に座っている。

雑記ブログですが、主に裁判傍聴記・事件現場取材を書いています。

老々介護の末、息子はナイフを手に取った(福嶋眞一)(殺人未遂)

  • 事件の概要

2019年9月29日、有料介護ホームの個室にて、大阪市淀川区の無職、福嶋眞一(69)が母親の首をタオルで絞め、母親の「痛い!」という悲鳴を聞きつけた施設職員が制止に入り(よって殺人は未遂に終わる)、息子はしばらくの問答の後、自ら警察署に赴いて自首した。母親は加療1~2週間を要するケガを負った。

  • 殺害を決意するまで

被告人は認知症の母を10年以上、献身的に介護していた。途中から施設に入所したが、それでもほぼ毎日通い詰め、施設からの電話相談にも丁寧に対応していた(10回以上は相談したとの職員の証言あり)。

しかし、母の認知症は悪化の一途をたどり、興奮状態になると昼夜を問わず息子を呼び出すようになった。このことが被告人を疲弊させ、また、施設も適切なカンファレンスを実施しなかったことが彼を追い詰めた。

 「自分がいなくなったら母はどうなるのだろう」と自身も高齢であることを踏まえ、被告人はぼんやりと母を自分の手にかけることを考え始める。他人に相談をせず、すべてを自分で抱え込んでしまったことが悲劇を生んだ。

ある日、自分を施設に入居させたことを母に非難され、被告人は激高する。そして彼は殺害を決意した。

  • 犯行当日

事件当日、親子は居室にいた。息子はまず肩たたき棒で被害者を殴打し、タオルで首を絞めた。「痛い!」という悲鳴を聞きつけた施設職員が部屋に入り、制止した。よって、息子が母から離れ、職員が母をかばう形になった。

ここで、騒ぎを聞いて駆けつけた副施設長が加わり、息子の説得を始める。いつもとは打って変わって表情が怒りに満ち、声の荒々しい彼を「もうやめてください」となだめるも、「こんなやつはもうええんや」「死ねばいい」と吐き捨て、彼は戸棚にあったナイフを手にした。「これで刺すで」、刃先を母に向ける。

「それをしてしまうとすべてが終わってしまいます!」副施設長の必死の説得に、彼はナイフを床に置いた。「もういい。自分で自首しに交番行くから」

さらなる加害行為を防ぐため、副施設長は玄関まで彼と付き添った。そして、彼は自転車で警察署に向かった。

  • 判決と説諭

 「主文、被告人を懲役3年に処する。この裁判が確定した日から5年間、その刑の執行を猶予する」

廊下まで響き渡る声で裁判長は判決を下した。何度も述べることになるが、私はこの裁判官が好きだ。人を罰する責任の重さが伝わってくる、傍聴マニアにも人気のあるお方である。

判決は懲役3年執行猶予5年となった。

被告人の情状を最大限に酌量軽減し、執行猶予を最大の5年にしたことで刑期を縮め、バランスを取った形と言える。

説諭としては、「(被告人は)よくがんばったが、決して許される行為ではない。この刑は軽いわけでもない。自分で償いを考えて、これからは他の人、関係者の話もよく聞くように」といった趣旨の内容だった。

  • こぼれ話

実はこの事件の初公判の日、私は遅れて大阪地裁に到着したため、傍聴席に座れなかった。すぐに休廷して人が出てきたため、窓からの風景を楽しんでいる人のよさそうなおじいさんに起訴状の内容や罪状認否について尋ねた。

快く答えてくださったのでしばらく雑談していたが、私の「傍聴にはよく来られるんですか?」という問いに「いや、これが初めてなんですよ」と表情を変えず彼は答えた。あれ、と思っていると、彼は「証人なんですよ」とわずかに笑みを浮かべて教えて下さった。

しまった、情状証人か! 大変失礼なのだが「ひょっとしてご身内の方ですか?」と口走ってしまい、ええ、と返してくださった。

本来なら証人に話しかけることなどあってはならないことだ。裁判所で見知らぬ人に話しかける際は気をつけよう……。