「主文、本件控訴を棄却する」
刑事裁判の場合、控訴審の7割は棄却されます。そのため棄却を言い渡された瞬間、傍聴人はやれやれといった様子で傍聴席を離れていくのがよくある光景です。
ですがその日は次の裁判まで時間があったため、理由まで聞くことにしました。これが案外おもしろかったので記事にします。
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量刑不当じゃなかった……!
控訴の理由の大半が「量刑不当」(刑事訴訟法381条)を主張するものです。これまで聴いた中には、強制性交、果ては殺人まで、量刑が重い場合、被害者やその遺族への補償が十分であるとしてその量刑不当を訴えることがほとんどでした。
本件をわざわざ聴きに行った理由としては、道路交通法という比較的軽い違反で控訴にまで至ったのが気がかりだったからです。以前の記事でも説明しましたが、道交法はほとんどが略式裁判で処理されます。
ところが控訴理由は事実誤認(刑訴法382条)でした。主張は以下の2つです。
- 測定結果が捏造されている
- 測定数値に疑問が残る
酒気帯び運転が発覚したのは未明に追突事故を起こしたからです。そこで、捜査は前夜の飲酒量を突き止めることから始まりました。
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どうやって飲酒量を調べるの?
発覚前夜、被告人は家族で飲食店に行っていました。店内には防犯カメラがあり、その飲酒量はいともたやすく証拠して残っています。ビール中瓶1本とコップ2杯、日本酒を2合。午後6時57分までこれらを飲んでいたことが克明にわかりました。
相当飲んでますね。計算すると純アルコール量は83.2g。一般男性では消失まで約17時間かかります。
理由(2)の数値に疑問が残るという主張は特に疑わしいものでもなく、また、被告人の主張以外に帰宅後も飲酒した可能性は否定できない、とされました。
理由(1)についてですが、検査後に被告は署名を拒否したため、それに沿った主張のようでした。しかし測定値はプリントアウトされているもので機械をごまかせるはずもなく、これについても否定されました。
以上、ただ原判決が支持されただけの話なのですが、弁護士費用もかかるだろうになんで納得いかなかったんだろう……と聴いていた私に疑問が残る判決でした。