(※本件は実名報道されているため、被告人の名前を掲載します。また、被害者のプライバシーには十分配慮いたします。報道は以下の通り)
https://www.asahi.com/articles/ASN8M61DXN8MPTIL00M.html
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事件の概要
友人同士である女性客二人に対し、事件現場となる八剣伝JR岸辺駅前店で執拗に酒をすすめた店長である岡本陽介と、店員である太田翔也は、二人を介抱していました。
ところが閉店後、岡本は体調不良であるA子さんをレイプし(準強制性交等)、太田は同じく酩酊状態にあるB子さんを襲いました。(強制性交等)
被害に遭ったA子さんは事件後まもなく警察署へ相談に行き、その連絡を受けたB子さんも勇気を出して警察署へ向かいました。
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強制性交等と準強制性交等の違いについて
よくある誤解ですが、「準」がつくのは程度の差ではありません。「(前略)抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による」(刑法178条2項)
そして前条である刑法177条は「強制性交等」であり、結局は「準」が付こうが強制性交と同じ扱いとなります。
A子さんは酩酊の度合いが酷く、それに乗じて岡本が犯行を行ったため準強制性交等の構成要件該当性が認められました。
そしてB子さんも酩酊状態にあったものの、手足をばたつかせたりしてなんとか抵抗しようとしたため、太田は強制性交等で起訴されています。
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事件の詳細(B子さんの審理審より)
私は太田の審理のみを聴いたため、以下の内容はその点を踏まえてお読みください。(※大変悪質な犯行であるため気分を害する恐れがあります。十分注意してください)
B子さんはアルバイトからの帰りに友人であるA子さんを誘って、八剣伝に入りました。太田はB子さんが好みのタイプであったといい、店長である岡本と共謀して、二人に執拗に酒をすすめます。
B子さんは嘔吐するまで酔い、A子さんと共に体調を崩しました。岡本と太田は営業が終わっても二人を店内で介抱しました。
しかし、閉店を口実に店の照明を落とした岡本と太田は凶行に及びます。
ベンチシートに横たわっていたB子さんは、太田に無理やりキスをされました。二人とも体調不良のため強く抵抗できなかったのですが、酩酊の度合いがB子さんは比較的軽く、泣きながら手足をばたつかせて抵抗しました。そのB子さんに太田は「なんで泣くの?」「気持ちいいよ?」などと声をかけながら犯行を続けます。スカートをまくり上げ、下着をおろし、指を挿入するなどの暴行を加えたのちに強制性交に至ります。
「気持ち悪くて、怖くて、悔しい」B子さんはそう綴っています。
太田は陰茎を挿入するシーンを動画撮影しました。犯行後、証拠隠滅のつもりでしょうか、岡本の指示で動画を削除しています。
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事件後のA子さんとB子さん
B子さんは帰宅すると、自室に閉じこもりました。そのまま事件について黙っておこうと思ったそうです。ですが、A子さんが妊娠を懸念して警察に行ったとの連絡を受け、B子さんも警察署へ向かいました。警察からの紹介を受けてとある施設に行き、検査を受けてモーニングアフターピルを処方されました。
被害についての供述も嫌でしたが必死にしました。
B子さんは知人以外の男性と二人きりになるのが怖くなり、通っていた整骨院に行けなくなりました。また、知人の男性であっても連絡をとれなくなりました。
現場付近に近寄れなくなり、部屋が暗くなるたびに事件を思い出してしまうと手記に綴られています。
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太田の供述
太田は犯行を一応は認めているものの、自身も酔っていて覚えていないと主張しています。示談を求めましたが被害者側から拒否されています。
最終陳述にて、太田は謝罪の弁を述べ、家族と見捨てないでいてくれた恋人に感謝と申し訳ない気持ちで一杯である、と口にしました。
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求刑と弁護側の主張
B子さんの手記には「もっと辛い思いをしてほしい」と書かれており、処罰感情の大きさが伺えます。検察側は、前科前歴が無いものの、懲役6年の実刑を求めました。
対して弁護側は、計画性はなく、介抱をしていた。暴行の態様が極めて悪質とは言えず「ごめん」と自ら犯行を止めた。供述内容は保身でなく記憶が曖昧なため。保釈を求めておらず、両親の監督の元、実家での同居を約束しているため再犯の可能性が低いことなどを主張し、執行猶予付きの判決を求めました。(つまり3年以下の懲役)
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判決
岡本に対しては懲役5年(未決勾留日数30日を算入)の実刑判決が下されました。
本件はA子さんが酩酊状態で抗拒不能であったことに乗じ、膣内射精にまで至ったものであり、前科前歴が無く、損害賠償金100万円を用意しているものの、A子さんの社会生活になお支障をきたしていることなどが理由として挙げられました。
大田に対しては懲役5年(未決勾留日数110日を算入)の実刑判決が下されました。
太田も前科前歴は無く、暴行の程度は強度とは言い難いが、B子さんの性的自由を侵害し、処罰感情の強さより、被告人に有利な事由を斟酌しても実刑に処するのが妥当である、との理由です。
同じ懲役5年の実刑判決で、前科前歴が無い被告人の判決としては奇しくも以前記事にした強制性交等致傷事件と同じ量刑です。尤も、強制性交等の下限が懲役5年であるというだけとも言えますが。
第一審は終わりましたが、被害者の方は終わりなき苦痛から逃れることができません。どうか安泰な生活が訪れますよう祈念し、被告人たちには獄中での猛省を期待したいです。
~2020年12月19日追記~
太田翔也の控訴審判決が大阪高等裁判所で下され、大田は原判決破棄、懲役4年6ヶ月と減刑されました。被害者への賠償に対する姿勢が評価される形となりました。