今日もまた、傍聴席に座っている。

雑記ブログですが、主に裁判傍聴記・事件現場取材を書いています。

計画殺人?巧妙に仕組まれた心中未遂(自殺幇助)(岸田延造)

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犯行に使われた公園の鉄棒。物置が元々設置されていたかは不明
  • 事件の概要 

2020年11月23日午前3時ごろ、大阪市東成区にて、妻(80=当時)と心中自殺をしようと考えた岸田延造(85)は近所の公園へと向かった。鉄棒にロープで輪をつくり、妻の自殺を幇助したのち、通行人が「高齢者が車イスの動いていない高齢者を運んでいる」(ママ)と110番通報。警察官が駆けつけたところ、岸田は青いシートがかけられた車イスを指差し、 「そこで死んどる。俺が最期を看取ったんじゃ」と告げ、なおも自殺を図ろうとする岸田を警察は任意同行した。

  • 本当に心中なのか

この被告人、逮捕時の容疑は殺人であった。あまりにも用意周到な心中だったからである。法廷にて職業を聞かれた際、「資産運用をしている。FXも」と誇った岸田は、なんと犯行前夜から自殺幇助までの様子をすべてICレコーダーに録音していた。内容は、葬儀社に葬儀費用を電話で聞いたもの、妻の「死にたい」という発言、亡くなる直前の夫婦の会話などである。

この中には、「今日は私、死ねへんよ」という妻の声も残されているのだが、岸田は聞いた覚えがないと主張した。

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鉄棒を別角度から。入り口にほど近いことがわかる。
  • 追い詰められてはいなかった

1959年に結婚した夫婦は3人の子をもうけ、事件までの20年ほどをふたりで過ごしていた。2017年から妻はうつ病認知症を併発したが、要介護度のうちでは最も軽度な「要支援1」と認定された。妻は事件の2ヶ月ほど前から子やケアマネージャーに「死にたい」と漏らすようになり、岸田は心中のためにロープを購入した。

  • 憤る子たち 

長女は「(両親は)典型的な昭和の夫婦で夫の言うことは絶対。本当に(母が)死にたがっていたか疑問」と供述しており、長男は「自分のしたことの責任を取ってほしい」。次男は「父とも呼びたくない。姉へ宛てた手紙にはFXのことなどが書いてあり『それはちゃうやろ』と思った。モラハラをしていて、母は猫と一人暮らししたいと言っていた。自殺教唆だと思う。刑務所に入ってほしい」と怒りをあらわにした。親族の誰も証人として出廷しないという、異様な法廷であった。

  • 夫の言い分

取り調べに対し、犯行前夜の午後10時に決行することを考えたと話した岸田は、録音の理由を「強要でなく自ら死にたがっていることを証明するため」と語った。

法廷では弁護側の主尋問にて、周りに相談するゆとりがなかったと述べた。子供に対しては「嫌なクソオヤジだったなと、謝るしかないです」。また、弁護士の「お子さんに合わせる顔はあるか」との質問には「開き直るしかない」と返した。

検察側は子に頼れなかったのかと問い詰めたが、子に頼ったことも頼んだこともないと答え、妻を失った寂しさはあると述べた。妻に対して申し訳無くないのかと聞かれ、「すまんな、といったところ」。

最後に裁判長が、周りに死にたいと相談したことがないことを再確認して被告人質問は終わった。

ちなみに最終陳述での岸田の発言は、「(犯行に使ったのは)ロープじゃなくてヒモ」というものだった。これには開いた口がふさがらなかった。妻への言葉でなく、なにやら殺意が強固でないという言い訳を始めたのだ。

  • 結果

検察側はケアマネージャーや長女の助けを受けていたのに「楽になりたい」という自己中心的な動機で犯行に及んでおり酌むべき点は無いと指摘。妻に対して自殺の意思をむりやり固めさせており関与の度合いが大きく、次男の「少しでも長い間、刑務所へ」という言葉を紹介して、懲役2年を求刑した。

弁護側は、非難は免れないものの、介護の疲弊や、心臓バイパス手術を受けた病歴などを挙げ、責任感から助けを求められなかったとして寛大な処分を求めた。

判決は、懲役2年執行猶予4年であった。

 

この事件、ICレコーダーが武器となって検察は殺人での起訴を断念したのだろうが、公園での不可解な行動、岸田本人の自殺の意思、法廷で微塵も感じさせられなかった反省、どれをとっても殺人としか思えなかった。

私は正義感でこのブログを書いてはいない。それでも、鉄棒の前で手を合わせたとき、亡くなったおばあちゃんの無念を少しでも伝えたいと切に思った。