今日もまた、傍聴席に座っている。

雑記ブログですが、主に裁判傍聴記・事件現場取材を書いています。

マッチングアプリを使って面識のない男にストーカー相手のインターホンを押させた女(ストーカー規制法違反)

  • 刑事裁判:大阪地方裁判所、第13刑事部1係、新件~判決
  • 罪名及び罰条:ストーカー行為等の規制等に関する法律違反
  • 7つの犯行 

2019年3月4日午後8時ごろ、大阪市東成区の飲食店従業員の女(28)は、男性A(35=当時)を同市鶴見区のAさんの自宅付近で待ち伏せた。また、同年8月にも同様の待ち伏せを行った。翌年6月2日からは3回に渡って他人を利用してA宅のインターホンを押した(後述)。その後も、自転車でA宅付近をうろついたりした。

これら7件の犯行について、女は事実を認めたものの、「一部では関係修繕のために向こうから会ってくれた」「他の一部については警察からの警告に怒りを感じたための行動で、目的が違う」などとして「Aに対しては申し訳ないと思っている」と理解が難しい認否を述べた。

ストーカー規制法では禁止している「つきまとい等」について、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」に限定しており、これを意識したものかと思われる。

弁護人は無罪を主張し、ストーカー規制法にあたらないとした。(ここでの同法の見解の対立については判決の解説で述べる)

また、供述されていないことを録取され、捺印が強制されたとして任意性も争うとした。

  • ベテラン・ストーカー

女は2014年に別の男性へのストーカー行為で懲役6ヶ月執行猶予3年の有罪判決を受けた。前科はこの件と脅迫の合わせて2犯がある。

Aさんは女の元交際相手ではあったが、最初の犯行のときにはすでに他の女性と結婚していた。

最初の待ち伏せ行為で警察から警告を受けた彼女は、次善の策として出会い系アプリを使い、事情の知らない男性2人に「(私の)自宅で飲もう」とメッセージを送ってA宅のインターホンを押させた。

Aさんは「大変不安な気持ちにさせられた。厳しい処罰を」とし、うろつく被告人を目撃したAさんの妻も「厳しく処罰してほしいです」と述べている。

  • 自覚の無い女

女はAさんと2016年の冬から2017年秋まで交際していた。その後もSNSでのやり取りは続き、2018年の秋~冬には月に1回ほど会うようになった。しかし、徐々に会う日時を決められなくなったため、女は実際に会いに行くことにした。これが公訴事実第一の待ち伏せ(2019年3月4日)である。このため、彼女はこれをストーカー行為と認めていない。だが、警察の注意を受けた上、その期間もSNSを通じて会う話をしていたのに今度は書面での警告を受けて警察官に怒鳴られた。これに怒った彼女は出会い系アプリを使ってインターホンを押させた。ストーカー規制法に基づく禁止命令の抜け穴だと思ったのだろう。

「会う約束を前々からしていたのに警察沙汰になり傷ついた」という彼女は2020年8月に摂食障害と正式に診断を受けた。初公判から、女は驚くほど線が細かった。

弁護人から個々の行為の理由を聞かれた彼女は、2020年12月7日に自らインターホンを押したのは、示談金300万円が高額すぎて納得できなかったためであり、7件目のうろつきも同じ理由からだと語った。

検察からはまず、Aさんとの恋愛関係は続いていたのか、と問われた。答えは、「恋人の尺度が難しい」。第一の犯行(待ち伏せ)は友人関係の修復のためでもあったという。結婚することとなる女性とAさんが交際を始めたことを知ったときは、「ブスだ」などとメールもした。

2020年8月下旬には家宅捜索が入った。取り調べの際には「認めないと帰らせない」と詰め寄られたという。

裁判官からの質問に対する回答で一番印象的だったのは、「(Aさんと)交際しているときもアポ無しでの訪問が私にとっては普通でした」というものである。この女の行動原理で一番問題なのはこの点では……?

最後に女は、「Aと会いたいかどうかは考えたくない」「Aとはもう関わりたくない」と陳述した。最後まで、悪いのはAさんという主張であった。

  • 行為の重み

判決は、懲役8ヶ月(未決勾留日数90日を算入)の実刑判決であった。ストーカー規制法実刑に処せられたケースは私にとって初めてだ。

被告人は恋愛や怨恨の感情を否定していたが、2016年11月からAさんと知り合って交際や性交渉に及び、同棲を開始したものの解消し、合鍵を返したこと。2018年10月からAさんが別の女性と交際を始めると、大量のLINEを送りつけ、鶴見区へ転居したあとも収まらなかったことなどから、恋愛や怨恨の感情を推認できるとした。

弁護人は、ストーカー規制法2条1項1号が規定する「住居等への押し掛け」は本件の場合、他人を介した行為であって該当しないと主張していたが、同法2条3項の「不安を覚えさせるような方法」は他人によるものでもあたると判示。例として、見知らぬ男性から深夜や未明にインターホンを実際に押されたことを挙げた。

量刑の理由として、1年9ヶ月の間に7回のストーカー行為で被害者は日夜不安になり、平穏な生活を阻まれた。被告人自身も接近しており不安感は強く、まったくの他人を巻き込んだことは相応に悪質である。前科があり、3万円の贖罪寄付や反省の態度、母親が監督を約束していることを踏まえても実刑は免れない。といった内容であった。

 

この事件は女のストーカー気質も去ることながら、被害男性にも非があることはどうしても触れておきたい。示談金の提示があったことから、男性は不貞行為を被告人と繰り返していたことは明白だし、女の「恋愛の尺度」というくだりは明らかに体の関係を示唆している。不倫で「離婚の話が進んでいるから」と抜かしてその気がない、よくある話と構造的には似ているのかもしれないなと感じた一件であった。